華麗なる冷酷

「ジョーカー」観てきました。

今回のジョーカーはバットマンの宿敵として華々しく活躍するダークヒーローじゃない。「元から精神に病を抱えた貧困層の中年が、周囲の状況に拍車をかけられ精神のバランスをさらに崩していく過程を描いた映画」です。字面にするとかなり暗いのですが、監督のトッド・フィリップスの演出と、ジョーカー役のホアキン・フェニックスの演技がすごい。誰でも持っていそうな心の闇の部分をうまく表現できており、暗い話なのに飽きさせません。DVDになったらもう一度観たいです。

でも、いい映画だから細かいところが気になる。こういうサイコパス系の映画は、出発点はおかしいが論理的な展開は正しいという矛盾が興味を引くものです。自分が実子ではなく養子だとわかったところで母親を手にかけてしまった理由にはいまいち論理性がありません。字幕だったから英語の内容を正しく日本語に写せなかったのでしょうか。

驚いたのですが監督のトッド・フィリップスは実は「ハング・オーバー」3部作など、コメディ映画で有名な監督でした。ハングオーバーとジョーカー。コメディ監督の思考にどのような変数をかけるとこのような映画のアイデアが出てくるのか、大変興味深いです。主人公のアーサー・フレックは、コメディ映画に向き合い続けるトッド・フィリップス監督自身ではないのか。人を笑わせるのアイデアを作るときに滓のようにたまった狂気が析出してできたのが今回の映画なのかもしれません。

 

音楽家の伝記映画

「レディ・マエストロ (原題:The conductor)」観てきました。

ほぼ世界初だった実在の女性指揮者アントニア・ブリコの半生を描く映画なのですが、いい映画でした。男女差別や権威主義をはねのけて指揮者として成功していく映像はとてもポジティブで、断られてもめげずに売り込むアントニアの前向きさが良かったです。映画は舞台が1920年代のヨーロッパとアメリカで、景色だけとっても見どころがあります。レトロな街並みとクラシックの音楽は相性が抜群です。

いい映画だったので細かいところが気になるのですが、この映画はどこまでが史実なのでしょうね? 伝記映画なのか、アントニアの半生を題材としたフィクション映画なのか。無条件で支援してくれる自分に好意を寄せてくれる大富豪の御曹司なんてそう都合よく現れないはずだし、男かと思ったら中盤で性別が実は女性だった登場人物がいるのですが、男か女かくらい見ればわかると思うのですが。

映画の舞台は1925年~1933年のアントニアが23歳~31歳までです。史実のアントニアは1989年まで存命(87歳没)で、晩年は病気がちだったそうですが、それにしても指揮者として本格的に活動するのはこの映画のあとの話ではないでしょうか?

 


9/20公開『レディ・マエストロ』予告編

ベトナム映画について

ベトナム映画の「ハイ・フォン: ママは元ギャング」観ました。中々面白かったです。

原題は主人公の名前の「Hai Phượng」です。「ママは元ギャング」なんて邦題のせいで観る人が減りそうですね。映画観たらわかるけどそもそもギャングじゃないし英題の「Furie」の方がまだまし。あと、ベトナムの人とこの話をしたら「あーハイフンね」と言われました。ハイ・フォンですらない笑

元格闘家の母親が誘拐された娘を取り返しに行くというひねりのないお話なのですが、主人公の役者のゴー・タイン・バンの格闘アクションがかなりの見どころです。冒頭のシーンに出てくるベトナムの農村部をもっと観てみたかったな。物語の大半は都会のサイゴンなのですが、やっぱり田舎の方がその国らしさが出ると思うんです。

日本で観られるベトナム映画はとても限られています。去年は新宿や横浜でベトナム映画祭が開催されて、そこで何本かベトナム映画を観ることができましたが今年は開催されないもよう。この映画の人気が呼び水になって、もっと日本にもベトナム映画が流れてくれたらいいなって思えました。

余談ですが、このゴー・タイン・バンさんはその数少ない日本で観られるベトナム映画にけっこう出ています。「クラッシュ('09)」「ソード・ウォリアーズ 皇帝の剣闘士('16)」「フェアリー・オブ・キングダム('17)」「仕立て屋 サイゴンを生きる('17)」「スターウォーズ 最後のジェダイ('17)」などなど。スターウォーズは今冬封切りのエピソード9次第で評価が変わるとしても、今まで観た出演作の中ではこの「ハイ・フォン」が一番面白かったです。

 


FURIE (2019) Official Trailer | Watch Now!

未来のはなし

「移動都市/モータルエンジン(原題:Mortal Engines)」を観ました。

戦争で荒廃した世界で、人々が陸上戦艦のうえに都市をつくり、移動しながら生活するお話。主人公の住む移動都市がそれよりも大きな移動都市「ロンドン」に襲われるところから映画が始まります。珍しいニュージーランド映画でした。ニュージーランドの映画でロンドンに襲われるというのは風刺の効いた演出です。

面白かったのですが惜しい映画でした。移動都市というアイデアにはインパクトがあり恋愛要素もあり磨けば光りそうな要素がけっこう入ってのですがいまいち磨きが弱いです。4部作の小説が原作で、これはその第1作目を題材にした映画だそうなのですが。製作費よりも興行収入が少なかったそうだから続編は出ないかもな、、、ひとまず原作は読んでみたいです。

映画で未来の世界を描く場合、暗い話になっていることが多いです。下りのエスカレーターと同じで物事は放っておけば悪い方向に進むことが多く、未知の困難を乗り越えてエスカレーターを駆け上がるよりも、既知のネガティブ状況がネガティブな方向に進展する方が想像しやすいということでしょうか?


『移動都市/モータル・エンジン』日本版本予告映像

笑えるアクション映画について②

「ジョニー・イングリッシュ/アナログの逆襲 (原題:Johny English Strikes Again)」観ました。

ジョニーイングリッシュシリーズはこれが3作目です。1作目は2003年で少し映像が古く、2作目「ジョニーイングリッシュ/気休めの報酬 (原題:Jony English Reborn)」はそれから10年目の2012年、一応続編ではありますがつながりはかなり緩やかです。

質の良いユーモアが多く、アクション映画なのですが最初から最後まで死人が出ません。コメディと言えど死者が出てしまうとユーモアではなくブラックユーモアになってしまうと思うのですが、本作にはそうした描写がなく、手放しで笑うことができます。今のところ僕が観たコメディ映画の中ではベストに入る面白さです。

大勢の人が泣ける映画や感動する映画は意外と簡単に作れるそうです。美しい情景や悲劇的な描写、感動的なBGMを入れればなんとなく泣けそうな画面を作ることはできます。反対に、笑える映画の方が作るのが難しいそうです。笑いの基準が人それぞれで、人によっては楽しく見える描写が別の人には不愉快に写ってしまうことがあるでしょう。笑える映画こそ作り手の技量が問われます。

驚いたのですが、監督のデイビット・カーは本作がデビュー作でした。誰でも笑える描写を作れる技量を持つ、この監督の次回作が楽しみです。

 


映画『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』本予告

 

笑えるアクション映画について

アメリカの経済紙「フォーブス」によると、ドウェイン・ジョンソンが今年もっとも稼いだ役者だそうです。8940万ドルだから90億円でしょうか。もう玄孫の代まで働かなくてすみそうですね。「ワイルドスピード」シリーズなどの最近の出演作は軒並み話題作だし結婚も決まったし公私ともに勢いのある役者です。

最近、ドウェイン・ジョンソン主演の「セントラル・インテリジェンス」という映画を観ました。ジャケットをみたら銃を持って写ってるドウェインの姿があるからきっとアクション映画なのかと思ったのですが、実はアクションを逆手に取ったコメディ映画でした。

高校時代は肥満でいじめられていた主人公(ドウェイン)がいつの間にかムキムキになり射撃・格闘技・話術・交渉術すべて一流のCIAの敏腕スパイとして活躍するお話です。

そもそも元プロレスラーで筋肉がありすぎるドウェインの体形自体がギャグなのと、主人公たちを追い詰めるCIAの捜査員たちも「これが監視映像だ」とか言いながらエロ動画を見せてしまったり、民間人に脅されただけでスナック菓子をぶちまけてしまったりと、どこか間抜けなところがあり、笑えます。それからアクション映画だけど人が死んだ描写が少ないのがいいところです。(ゼロならもっと良かったけど。)


『セントラル・インテリジェンス』予告編

 

柳の下の元気なドジョウ

マトリックスの4作目が製作決定したそうです。キアヌ・リーブスキャリー・アン・モスのキャストも変わらないそう。3作目の「マトリックス・レボリューションズ」で二人とも死んだと思いますがどうつながるのでしょうか。

マトリックスといえばカンフーのアクションと、静止と動作をうまく掛け合わせた映像が新しくて、世界中で大ヒットしたと思います。で、こういう大ヒットのあとには必ず亜流のような映画が製作されるのも大ヒット映画の宿命。

「forget the Matrix!!」という挑戦的な宣伝文句の「リベリオン/反逆者」という映画があります。なんかもう邦題からしてB級くささがプンプンします。ストーリーも「第3次世界大戦後の荒廃した世界で、統制された社会に戦いを挑む」みたいなストレートなお話なのですが、この映画に登場する「ガン・カタ」というこの映画独自の拳法がすごい。この映画がただの柳の下のドジョウで終わらなかった理由がこのガン・カタにあります。

なんでも、「ガン・カタは膨大な銃撃戦のデータ分析から生まれた戦法で、相手の動きは統計から予測でき、最大のダメージを最大の数の敵に与えることができる。そして敵の銃弾は弾道を予測して回避することができるのだ!」 だそうです。

仮説検定の作り方をようやく理解した僕としては統計学ってそんな便利な学問だっけ?と思わないでもないのですが、ガンカタを駆使してヴィランを次々と打ち倒していく映像は観ていてとてもスカッとします。

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