故郷忘じがたく候

「パラサイト 半地下の家族 (韓:기생충, 英:Parasite) 」観ました。

豪邸に暮らす裕福な家族に、失業中の家族がそろって使用人として雇われるお話です。コメディかと思ったらブラックコメディでした。少し前に話題になった美男美女のアイドルをそろえて視聴率を狙う「韓流」とは違う、きちんと作品の内容で勝負をする良作でした。

予告編を観た感じではDVDでいいかなと思っていたのですが、日経新聞の文化欄でよく話題に上っていたので映画館で観ました。すでにいくつか映画賞を受賞していて、この2月にはアカデミー賞も受賞したそうです。「なんとか映画賞を受賞!」とのコピーが出ていても「全米が泣いた!」と同じくらい抽象的でどのくらいすごいのかよくわからないのですが。映画賞を受賞するということは、DVDで観る予定だった僕が映画館で観たくなるくらいには効果のある宣伝になるということでしょうか。

アカデミー賞の作品賞を受賞したのは非英語映画では初だったそうです。「受賞者が白人ばかりで女性や外国人がいない」という批判を受け続けたアカデミーの姿勢が変わり始めた、、、そうなのですが、確かに受賞者に女性が少ないのは問題だとしてもアメリカの映画祭なのだからアメリカ人が選ばれるのは普通ではないでしょうか? 日本アカデミー賞だってきっと受賞者は日本人ばかりのはずです。

 


『パラサイト 半地下の家族』90秒予告

 

 

All our yesterdays

ヴィクトリア女王 最期の秘密 (Victoria & Abdul)」観ました。

ヴィクトリア女王と、インド人の従僕アブドゥル・カリムのお話です。19世紀後半の、イギリス統治下のインドを、イギリスの視点から描いた映画です。

18世紀以降のイギリスは破竹の勢いで世界に植民地を広げます。大英帝国とは当時のイギリス「British Empire」を訳した言葉ですが、全盛期のイギリスは世界の1/4を領土とし、まさに世界帝国まであと一歩のところまで行ったそうです。

作中でもイギリス人が「我々は世界で最も優れた国だ」と言い、インド人が「やつらは世界を搾取している国だぞ」と言います。今回はイギリスの視点から描かれたけど、実際統治される側だったインドから観るとどのような物語になるのでしょうか。

ヨーロッパの豪華な建物の中で、イギリスの王族や王室関係者を中心に、ときどき差別にも遭いながらも健気に女王と交流するアブドゥルの様子が「美しく」描かれます。この映画自体は脚本や役者の演技がとてもよくできていて、見ごたえのある映画なのですが、植民地支配が明るく美しい話であるはずがありません。作り物・おとぎ話のように見えてしまいました。


映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』予告編

ヴィクトリア女王 最期の秘密 (字幕版)

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  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: Prime Video
 

 

天の向こう側

「アド・アストラ (Ad Astra)」観ました。

ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズという一流の役者が主演で、映像の作りこみもばっちりです。宇宙の彼方に消えた研究者の父を探しに、同じく宇宙の彼方まで出かける物語で、名優の演技とシリアスな劇伴と精緻なCGで序盤はどんどん引き込まれるのですが。。。惜しい映画でした。

「月は資源を巡っての紛争地帯になっている」というセリフのもと、月面で主人公たちに完全武装の集団が襲い掛かるシーンでまず疑問が飛び出る。真空中の月面で活動できる装備をそろえられるほどの集団が、ただ車で走ってるだけの主人公たちに一体どれほどのモチベーションを感じたのかと。。。

十数年ぶりに再会したお父さんも研究に取り付かれたというよりは痴呆にでもかかってるような印象。天王星から地球まで約26億kmの距離を作中セリフの「72日」で到着してしまうのもちょっと近すぎる気がします。26億km÷72日≒時速150万kmなんだけど。それに天王星からの航海中に孤独に打ちひしがれる描写があるのですが、映画の主人公なんだから2ヵ月ちょいくらいの孤独は我慢しよう。

月面で襲われるシーンはカット、お父さんが宇宙に行った理由はもう少し作りこんで、天王星から地球まで何日かかったかは秘密にする。予算にインパクトのないほんの少しの修正で名作になる余地は十分あると思うのですが。

 


映画『アド・アストラ』予告編 9月20日(金)公開

 

魂の駆動体

「フォードvsフェラーリ (原題:Ford v Ferrari)」観ました。

面白かった!2020年のスタートを切るいい映画でした。「フォードvsフェラーリ」ってタイトルで言うほどフェラーリはそんなに存在感なかった気がするけど(^^;; まず目を引くのがクリスチャン・ベイルの演技です。どこか知的で品のあるキャラクターを演じることが多い役者さんですが、今回は話し方が粗野でお金にも困りがちな町工場のおっちゃんでした。クリスチャン・ベイルの新境地と言えるでしょうか。

物語の軸はカーレースです。レースだから物語としては1位でぶっちぎって優勝すればきれいに盛り上がって感動も誘える作りになるはずです。しかしながら、戦後間もないアメリカの様子、レーシングチームとドライバーの意地、フォード社内の都合などなど、レース映画に収まらないテーマがいくつも込められていてあっという間の上映時間でした。

実話を基にした映画だけど、従業員数202000人のフォードと従業員数3000人のフェラーリではそもそも勝負にはなりません。映画で描かれたレースが史実だとしても、それが世の中の歴史に与える影響はほとんどないでしょう。だからなぜあの結末にしたのか?と考えを巡らすことも楽しく、そういう空想を巡らす余地を保てるほど、よく作りこまれたいい映画でした。


映画『フォードvsフェラーリ』予告編 2020年1月10日(金)公開

フォードvsフェラーリ (オリジナル・サウンドトラック)

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  • 発売日: 2019/11/15
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史実とフィクションのあいだ②

「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり (The Aeronauts)」観ました。

1862年、日本が幕末期だったころのイギリスで、気象を研究するために気球に乗って空を飛ぶ実話を題材にした話。主演はフェリシティ・ジョーンズです。「ローグ・ワン」「インフェルノ」「ビリーブ/未来への大逆転」など最近活躍が目立つ役者さんです。

1/17(金)から映画館でも上映していますがAmazonプライム発の映画です。映画は映画館で上映されるから映画なので「ネット配信の映画」は映画って言っていいのかな?という違和感はあるものの、出かけずに映画が観られる利便性にいずれ淘汰される平成の価値観でしょうか。

ただ今回はネット配信映画の利便性が裏目に出たかな。。。作中で気球に乗るのは一度だけ。物語の冒頭で気球に乗り、フライト中に回想シーンを織り交ぜて物語が進みます。フェリシティが演じるアメリアも史実には登場しない架空の人物です。展開にひねりが少なく予算の不足を感じてしまいました。

それに、主演の二人はとてもいい演技をしていてそれだけでも見どころになるけど、理工系の研究は再現性が重視されますから、たった一度のフライトで気象研究の業界に影響を与える発見が得られるというのも不自然な気がするのです。

まだAmazonには自前で映画を作るノウハウが不足していたのかもしれません。Amazonプライムの映画の今後に期待。


【公式】『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』2020年1月17日(金)公開/本予告

 

史実とフィクションのあいだ

「ビリーブ 未来への大逆転 (On the Basis of Sex)」観ました。

1970年代のアメリカが舞台で、のちにアメリカの最高裁判所の判事になる、実在の女性弁護士ルース・ベイダー・ギンズバーグさんの活躍を描く映画です。「ローグ・ワン」で主演だったフェリシティ・ジョーンズが主演。作中でフェリシティ・ジョーンズの次のカットでフェリシティ・ジョーンズと同じ衣装の表情が厳しいおばちゃんが出てくると思ったらキンズバーグさん本人でした。

法学部と法科大学院で優秀な成績をおさめて弁護士資格を得るものの、女性だからという理由で大手の弁護士事務所に就職できず、しかたなく法学部の教授になる。。。そうなのですが、1970年代のアメリカはこんなに差別があったのでしょうか? アメリカといえば合理主義・実力主義のイメージが強く、しかたなく大学の先生になれるほど優秀な人を性別で弾くという点が気になります。

とはいえ、細かいところが気になるのは映画がよくできている証拠。作中でキンズバーグさんがある法律が女性だけでなく男性も差別している点に気付きます。一つの裁判でクライアントの弁護を担当するだけでなく、法律上の性差別撤廃までを同時に訴える鋭さ。自分の経験と照らし合わせて世の中が抱える矛盾に気付き、知力を糧に行動起こす流れがきれいに描けていたいい映画でした。

 


【公式】『ビリーブ 未来への大逆転』3.22(金)公開/特報

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神がそれを望んでおられる

「2人のローマ教皇 (英語原題:The Two Popes)」観ました。

Netflix映画です。Netflix映画は製作と制作が一つの会社の中で行われているせいか、企画の作りこみが甘い作品がときどきあるのですが、この作品は面白かったです。映画館で上映しても鑑賞に堪えられる作品だと思います。

2012年に ローマ教皇ベネディクト16世からフランシスコに交代する舞台裏での出来事を映画化した作品。史実ではベネディクト16世とフランシスコさんの対話は、フランシスコさんが教皇になった2013年以前には行われていないそうですが、さすがにお互い知り合いだっただろうし、映画の中でほど本格的に対話をしていなくても何かの打合せで顔を合わせて世話話をしたことくらいはあったでしょう。

この映画の特徴ですが、物語の大半がベネディクト16世とフランシスコさんの対話のシーンです。キリスト教の要職を辞めたいフランシスコさんvsフランシスコさんに辞めてほしくないベネディクト16世の対話が軸なのですが、お互いへの尊敬の念は維持しつつ、キリスト教の故事を織り交ぜて理路整然と自分の意見を組み立てる話し合いがとても知的で飽きさせません。失礼を承知で言うと、お年寄り二人で話し合っているだけの映画なのですが、それでも飽きさせないのは名優の技量によるものでしょうか。

 


『2人のローマ教皇』予告編 - Netflix