詩人と同じようにスペンサーだ

「スペンサー・コンフィデンシャル (Spenser Confidential)」観ました。

ロバート・B・パーカーの小説シリーズに着想を得た物語です。原作の小説シリーズは全部で39作もあり、僕はまだ数冊しか読んでないのですが、少しずつ楽しみに読んでいます。

ちなみにスペンサーは下の名前が不詳です。この映画でもスペンサーの刑務所の書類に釈放スタンプを押すシーンがあり、本名も記載されているようなのですが、「SPENSER」とは書かれているもののその前のファーストネームの箇所だけぼかされていて判読できません。

映画と小説のつながりはこうしたシリーズのお約束と一部の登場人物にとどまり、原作の登場人物はスペンサーと相棒のホーク、それに愛犬のパールしか出てきません。せめてスペンサーの彼女のスーザンは出してほしかったところ。スペンサー小説は会話劇がひとつの見せ場なのですが、今回の映画ではそれも特に意識されていないようでした。

映画自体は重いテーマもなく、アメリカの地方都市で起きた小さな事件をスペンサーが自分の信念に基づき解決に乗り出す、気楽に観られるお話です。製作費もしっかりかけられているようで、気楽な物語だけど画面はしっかり作りこまれています。続編を匂わす終わり方をしていました。続編が出たら観てしまうでしょう。

 


マーク・ウォールバーグ主演!『スペンサー・コンフィデンシャル』予告編 - Netflix

 

走り続ける力

「さらば愛しきアウトロー (The Old Man & the Gun)」観ました。

御年83歳の主演ロバート・レッドフォードの俳優引退作。人生の中で100回近い銀行強盗を成功させ、何度刑務所に送られてもその都度脱獄した、実在の人をテーマとした映画です。

わざわざ捕まってはまるでそれを楽しむかのように脱獄する主人公。銀行強盗もお金目当てではなく、あくまで何物にも囚われない自由を謳歌するための行動のように見えます。世の中の人はさまざまな制約の中で生活しています。世の中の常識、責任、周りの人々との関係性などなど、社会生活を営む上で必要な制約がたくさんあり、これらの制約を守ることで平穏な毎日を送ることができる。

けれど、誰もがそうした毎日を窮屈に感じ、それを打ち破りたいと心の中で思っているかもしれません。そうした願いをすがすがしく描く自由で軽快ないい映画でした。役者として自在に生きてきたロバート・レッドフォードの最終回にふさわしい映画でした。

 


ロバート・レッドフォード俳優引退作/映画『さらば愛しきアウトロー』予告編

さらば愛しきアウトロー (字幕版)

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  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: Prime Video
 

 

盗まれた街

コンテイジョン (Contagion)」観ました。

2011年公開。中国で発生した未知の感染症が世界中に広がり多数の死者が出るというお話です。10年近く前の映画ですが、奇しくも現在流行しているコロナウィルスによる世の中の影響を理解するのに役立つシミュレーション映画となってしまいました。

この感染症は罹患したらゾンビになってしまったり、感染症の原因は実はどこかのテロリストの仕業だった、のようなアドベンチャー映画に登場する病気ではありません。あくまで自然災害として、流行からその終息までが淡々と描かれます。

作中の感染症の発生源は中国ですが、舞台はアメリカです。感染症の終息に奮闘する医療関係者、感染症に便乗してデマを流し収益を上げるメディア関係者、感染症によって混乱するアメリカ社会が描かれます。日本でも感染者が出た描写がありましたが、日本ではどのような対策が取られていたかまでは描かれません。

新聞やラジオで見かける、実際の日本のお役所のコロナウィルスの対策を鑑みると、危機意識がそれほど高くないように見えてしまいます。

僕は来月海外に出張する予定でした。久しぶりの海外出張、楽しみでしたが中止にしました。いまの日本で一番危ないのは自粛ムードが広がるイベント会場でも懇親会の会場でもなくて国際空港です。自分の身は自分で守らなければなりません。

 


映画『コンテイジョン』予告編【HD】 11月12日(土)公開

コンテイジョン [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2012/09/05
  • メディア: DVD
 

 

故郷忘じがたく候

「パラサイト 半地下の家族 (韓:기생충, 英:Parasite) 」観ました。

豪邸に暮らす裕福な家族に、失業中の家族がそろって使用人として雇われるお話です。コメディかと思ったらブラックコメディでした。少し前に話題になった美男美女のアイドルをそろえて視聴率を狙う「韓流」とは違う、きちんと作品の内容で勝負をする良作でした。

予告編を観た感じではDVDでいいかなと思っていたのですが、日経新聞の文化欄でよく話題に上っていたので映画館で観ました。すでにいくつか映画賞を受賞していて、この2月にはアカデミー賞も受賞したそうです。「なんとか映画賞を受賞!」とのコピーが出ていても「全米が泣いた!」と同じくらい抽象的でどのくらいすごいのかよくわからないのですが。映画賞を受賞するということは、DVDで観る予定だった僕が映画館で観たくなるくらいには効果のある宣伝になるということでしょうか。

アカデミー賞の作品賞を受賞したのは非英語映画では初だったそうです。「受賞者が白人ばかりで女性や外国人がいない」という批判を受け続けたアカデミーの姿勢が変わり始めた、、、そうなのですが、確かに受賞者に女性が少ないのは問題だとしてもアメリカの映画祭なのだからアメリカ人が選ばれるのは普通ではないでしょうか? 日本アカデミー賞だってきっと受賞者は日本人ばかりのはずです。

 


『パラサイト 半地下の家族』90秒予告

 

 

All our yesterdays

ヴィクトリア女王 最期の秘密 (Victoria & Abdul)」観ました。

ヴィクトリア女王と、インド人の従僕アブドゥル・カリムのお話です。19世紀後半の、イギリス統治下のインドを、イギリスの視点から描いた映画です。

18世紀以降のイギリスは破竹の勢いで世界に植民地を広げます。大英帝国とは当時のイギリス「British Empire」を訳した言葉ですが、全盛期のイギリスは世界の1/4を領土とし、まさに世界帝国まであと一歩のところまで行ったそうです。

作中でもイギリス人が「我々は世界で最も優れた国だ」と言い、インド人が「やつらは世界を搾取している国だぞ」と言います。今回はイギリスの視点から描かれたけど、実際統治される側だったインドから観るとどのような物語になるのでしょうか。

ヨーロッパの豪華な建物の中で、イギリスの王族や王室関係者を中心に、ときどき差別にも遭いながらも健気に女王と交流するアブドゥルの様子が「美しく」描かれます。この映画自体は脚本や役者の演技がとてもよくできていて、見ごたえのある映画なのですが、植民地支配が明るく美しい話であるはずがありません。作り物・おとぎ話のように見えてしまいました。


映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』予告編

ヴィクトリア女王 最期の秘密 (字幕版)

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  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: Prime Video
 

 

天の向こう側

「アド・アストラ (Ad Astra)」観ました。

ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズという一流の役者が主演で、映像の作りこみもばっちりです。宇宙の彼方に消えた研究者の父を探しに、同じく宇宙の彼方まで出かける物語で、名優の演技とシリアスな劇伴と精緻なCGで序盤はどんどん引き込まれるのですが。。。惜しい映画でした。

「月は資源を巡っての紛争地帯になっている」というセリフのもと、月面で主人公たちに完全武装の集団が襲い掛かるシーンでまず疑問が飛び出る。真空中の月面で活動できる装備をそろえられるほどの集団が、ただ車で走ってるだけの主人公たちに一体どれほどのモチベーションを感じたのかと。。。

十数年ぶりに再会したお父さんも研究に取り付かれたというよりは痴呆にでもかかってるような印象。天王星から地球まで約26億kmの距離を作中セリフの「72日」で到着してしまうのもちょっと近すぎる気がします。26億km÷72日≒時速150万kmなんだけど。それに天王星からの航海中に孤独に打ちひしがれる描写があるのですが、映画の主人公なんだから2ヵ月ちょいくらいの孤独は我慢しよう。

月面で襲われるシーンはカット、お父さんが宇宙に行った理由はもう少し作りこんで、天王星から地球まで何日かかったかは秘密にする。予算にインパクトのないほんの少しの修正で名作になる余地は十分あると思うのですが。

 


映画『アド・アストラ』予告編 9月20日(金)公開

 

魂の駆動体

「フォードvsフェラーリ (原題:Ford v Ferrari)」観ました。

面白かった!2020年のスタートを切るいい映画でした。「フォードvsフェラーリ」ってタイトルで言うほどフェラーリはそんなに存在感なかった気がするけど(^^;; まず目を引くのがクリスチャン・ベイルの演技です。どこか知的で品のあるキャラクターを演じることが多い役者さんですが、今回は話し方が粗野でお金にも困りがちな町工場のおっちゃんでした。クリスチャン・ベイルの新境地と言えるでしょうか。

物語の軸はカーレースです。レースだから物語としては1位でぶっちぎって優勝すればきれいに盛り上がって感動も誘える作りになるはずです。しかしながら、戦後間もないアメリカの様子、レーシングチームとドライバーの意地、フォード社内の都合などなど、レース映画に収まらないテーマがいくつも込められていてあっという間の上映時間でした。

実話を基にした映画だけど、従業員数202000人のフォードと従業員数3000人のフェラーリではそもそも勝負にはなりません。映画で描かれたレースが史実だとしても、それが世の中の歴史に与える影響はほとんどないでしょう。だからなぜあの結末にしたのか?と考えを巡らすことも楽しく、そういう空想を巡らす余地を保てるほど、よく作りこまれたいい映画でした。


映画『フォードvsフェラーリ』予告編 2020年1月10日(金)公開

フォードvsフェラーリ (オリジナル・サウンドトラック)

フォードvsフェラーリ (オリジナル・サウンドトラック)

  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: MP3 ダウンロード