第一作目のフォーマット

ベトナム映画の「第三夫人と髪飾り(原題:Vo Ba)」観てきました。

ベトナム語は「名詞+形容詞」の語順で、Voは妻、Baは3という意味だから、邦題はあながち間違っていないものの、タイトルに入れるほど髪飾りの描写はなかった気がします。(ちなみにどう発音するのかはわかんね)

日本でいうと明治時代の、19世紀の貴族(?)の暮らしを描いた映画でした。ちなみにこの映画、主人公が第3夫人として嫁いでくるところから始まるのですが、物語らしい物語がありません。起承転結ではなく起承承承という感じです。

ハイキー気味に仕上げた明るくてキレイな映像とともに、自然と調和した屋敷の中での日常の暮らしを淡々と描いています。大きな出来事は少なく静かな日常が続く、ベトナムらしいベトナム映画でした。出演してる役者も今作以外の作品で何人か見たことがある人でした。ある意味、大きな冒険をせずにベトナム映画のフォーマット通りに作った映画と言えなくもない。

ベトナムの日常生活を描く映画は、物語らしい物語が存在しなくて登場人物の男の中に必ず浮気をしている人がいる、という特徴があるのですが、本作でもそれは健在です(笑) ベトナムでは浮気が蔓延っているのでしょうか?

 


Bunkamuraル・シネマ10/11(金)よりロードショー『第三夫人と髪飾り』予告編

神はよしとされた

ターミネーター:ニュー・フェイト (Terminator: Dark Fate)」観てきました。

作品の内容を見ると邦題の「ニューフェイト」の方がしっくり来る気がします。今までにあったいくつかの枠組みを取り払い、ターミネーターの物語の骨組みを洗い出した良作でした。面白かったです。

ただ、やっぱりターミネーターは2作目が頂点。このままだと本当に世界が滅びそうな焦燥感とか、いくら撃ってもすぐに再生する敵のターミネーターの緊張感とか、2作目にはあったエネルギーを今作では超えられていない印象です。観客の目が肥えてしまったのかもしれません。

ターミネーター2」以降は「ターミネーター3('03)」「ターミネーター:サルヴェーション('09)」「ターミネーター:ジェニシス('15)」など、ターミネーターの3作目とされる映画が次々と作られてはリブートされる(なかったことにされる)という状況が続いていたのですが。

コンピューターが核戦争を起こして世界が終わるという未来は「一つの可能性としての未来」であるとターミネーターの第一作ですでに語られており、今回の「ニューフェイト」が作られたことで、これらのターミネーター3作目の作品もすべて「一つの可能性」であることが示されたことになります。ジェームズキャメロンは続編の天才って広告に出てしましたが、その通りでした。さすがの構成力です。

この作品がターミネーターシリーズの最終作だとしたら、きれいにまとまった最終回にふさわしい作品だと思います。

 


映画『ターミネーター:ニュー・フェイト』本予告【新たな運命編】11月8日(金)公開

ターミネーター2 [DVD]

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祈りと日

沈黙 -サイレンス-」観ました。本屋で原作の小説が平積みされており、読んでみたら面白かったので映画も観てみたのです。

1700年代(江戸時代の半ば)に日本にキリスト教を布教しに来たポルトガル人の宣教師の話です。史実ではなくフィクションで、遠藤周作の時代小説「沈黙」をハリウッドで映画化したものですが、日本人役はすべて日本人の役者が担当しています。ハリウッド映画にありがちなアジア系アメリカ人の役者による「英語はやたら流暢なのに日本語のセリフがおかしい」という状況が起きない良作です。

小説ではポルトガル人の主人公と日本人との会話がスムーズに進み過ぎてちょっと違和感がありました。映画ではきちんとその辺りも説得力のある描写になっていてよかったです。

史実の宣教師のザビエルなんて日本語はほとんど話せず、ヤジローという日本人の小姓の通訳に頼ってたわけですから。ザビエルはろくすっぽ勉強もせずに「日本語は悪魔の言語だ」なんて言ったそうですが、僕は言いたい。「あんたのカッパみたいな髪型の方が中年の男にとっては悪魔だ」と。ポルトガル語を勉強してから言ってやりたいです。

言語の方の考証はしっかりしてたのですが、そういえば江戸時代にしては月代を剃っている人が少なかったです。ザビエルの髪型(トンスラ)や中国の辮髪は確かに僕には変わった髪型に見えてしまうのですが、やはり月代を剃って髷を結う僕らには見慣れたあの髪型も外国の方には受けが良くないのでしょうか。

沈黙 (新潮文庫)

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ランボー待ち②

ランボー5の日本公開待ちというわけで「ランボー/最後の戦場 (原題:Rambo)」観ました。

ランボーはもともとベトナム戦争の帰還兵の話です。1作目('82年)ではただ立ち寄っただけのアメリカの片田舎で帰還兵のランボーが差別に遭う物語で、アクションというよりヒューマン映画に近い構成でした。

アクション映画になるのは2作目以降です。ベトナムに取り残されたアメリカ軍の捕虜を救出する2作目「ランボー/怒りの脱出('85年)」、ソ連軍に捕まった恩師を救出する3作目「ランボー/怒りのアフガン('88年)」と続きます。もともと疲れたベトナム帰還兵の話だから3作目以降は本筋からそれてる気がしないでもありません。

さて、この4作目「ランボー/最後の戦場」ですが公開は2008年で、ミャンマーの悪徳軍人を相手にランボーが戦います。ランボーが本当は戦車とか戦闘機向けの、人に向けて撃ってはいけないタイプの機関砲でつぎつぎと敵を打ち倒していく映像はスカッとします。ランボーが打ちまくってるところにわざわざ出てくる軍用の船とかトラックとか、もはやただの的でしかないw

映像としては面白いのですが、物語として今一歩踏み込みがほしい映画でした。21世紀に入ってランボーのような軍人が活躍できる、敵側に徹頭徹尾の極悪人しかいない「戦場」というのはどうにも想像しづらく、またベトナム戦争が終わってもう30年経つわけだからランボーにはそろそろ立ち直っていてほしいと思います。

恐らく今度こそランボーの最終回となるランボー5で、ランボーはどこを戦場に選ぶのか、日本公開を楽しみにしています。

 

ランボー 最後の戦場 (字幕版)
 

ランボー待ち

ランボー5のプロモーションを兼ねているのか、最近立て続けにスターローンの映画が出ました。ちょうどツタヤに行ったときに並んでいた「バックトレース」と「大脱出2」を観ました。

「バックトレース」はお店のポップによってはスタローンしか写っておらず、てっきりスタローン主演作品かと思ったのですがスタローンは脇役。つなぎのシーンにしか出てこないスタローンの存在感があり過ぎて主人公の役者が目立ちません。記憶喪失の主人公が自分の記憶をたどって驚きの結末を迎える話らしいのですが、最後まで観られませんでした(m__m) 

「大脱出2」の方もあまりスタローンが活躍しません。「大脱出1」ではスタローンとシュワルツェネッガーがW主演の活躍で、コンビを組んで脱獄する見せ場があったのですが。今回は部下役の若手俳優が活躍して、こちらの方が主演のような扱いです。

どちらの映画でもスタローンの出番が少ないのですがランボー5の準備で忙しかったのでしょうか?

スタローンは現在73歳(!)ですが、脚本も書けるし映画の監督もできる多彩っぷりにほかの同世代の役者よりも優秀さが際立っている気がします。ランボー5作目の「ランボー5/ラスト・ブラッド」 、外国ではもう封切られているようなのですが日本ではいつ封切られるのかな。

 

「大脱出」1作目は面白いです

大脱出 (字幕版)

大脱出 (字幕版)

 

控えめなキアヌ無双

ジョン・ウィック:パラベラム (John Wick: Chapter 3 - Parabellum )」観てきました。

面白かったけど、1作目と2作目で盛大にルールをぶっちぎって襲い掛かってきた敵を全員返り討ちにしてた爽快なジョンウィックが、今作では微妙に空気を読みながら暴れている点がちょっと残念です。4作目への伏線を作ることに集中したのかな。

小道具にロザリオが出てきたり、ホテルの支配人が神父を思わせる服装をしていたり、ジョン・ウィックのシリーズはキリスト教を意識する描写が多いのですが、今作で登場した裏社会のボスはターバンを巻くイスラム教のような服装の人でした。「ジョン・ウィックはキリスト世界だけじゃなくてイスラム世界も敵にまわしちゃったんだよ。ほんとに世界中敵だらけだよ」というメッセージとも取れるのですが、それにしても今回は説明描写が多くていまいちスカッとしません。

あとやっぱり日本描写が適当なんだなあ。ニンジャ(とされる殺し屋)はテコンドーで戦ってたし、ニンジャ軍団のリーダーの日本語は日本語の字幕がないと意味が取れない。アクション映画としては十分面白くて観て損はない映画だけど、1作目と2作目で製作サイドが作ったハードルを超えられなかった印象です。4作目が出たら観るとは思うけど、DVDになるまで待つと思います。

 


ジョン・ウィックが最強の刺客・ニンジャとバトル/映画『ジョン・ウィック:パラベラム』日本版予告編

華麗なる冷酷

「ジョーカー」観てきました。

今回のジョーカーはバットマンの宿敵として華々しく活躍するダークヒーローじゃない。「元から精神に病を抱えた貧困層の中年が、周囲の状況に拍車をかけられ精神のバランスをさらに崩していく過程を描いた映画」です。字面にするとかなり暗いのですが、監督のトッド・フィリップスの演出と、ジョーカー役のホアキン・フェニックスの演技がすごい。誰でも持っていそうな心の闇の部分をうまく表現できており、暗い話なのに飽きさせません。DVDになったらもう一度観たいです。

でも、いい映画だから細かいところが気になる。こういうサイコパス系の映画は、出発点はおかしいが論理的な展開は正しいという矛盾が興味を引くものです。自分が実子ではなく養子だとわかったところで母親を手にかけてしまった理由にはいまいち論理性がありません。字幕だったから英語の内容を正しく日本語に写せなかったのでしょうか。

驚いたのですが監督のトッド・フィリップスは実は「ハング・オーバー」3部作など、コメディ映画で有名な監督でした。ハングオーバーとジョーカー。コメディ監督の思考にどのような変数をかけるとこのような映画のアイデアが出てくるのか、大変興味深いです。主人公のアーサー・フレックは、コメディ映画に向き合い続けるトッド・フィリップス監督自身ではないのか。人を笑わせるのアイデアを作るときに滓のようにたまった狂気が析出してできたのが今回の映画なのかもしれません。